人間の脳はデジタル社会に適応していない
そんな言葉からこの本は始まります。
私たちは、スマホなどの電子デバイスを巧みに扱えていると誤解しています。
それによる悪影響についてもう一度考えさせてくれる本です。
目次
著者紹介
アンデシュ・ハンセン
1974年スウェーデン生まれ。
精神科医。
経営学修士。
現在は病院勤務の傍らメディア活動を続け、前作「一流の頭脳」は世界的ベストセラーに。
訳者
久山葉子
1975年兵庫県生まれ。
翻訳家。
エッセイスト。
神戸女学院大学文学部英文学科卒。
スウェーデン大使館商務部勤務を経て、現在はスウェーデン在住。
著書紹介
第一刷発行 2020年11月20日
255ページ
発行社 株式会社新潮社
コンセプト
スマホは人類の味方なのか
対象読者
全国民
火災報知器の原則
火災報知器はしばしば誤作動します。
しかし、よく作動する分にはなんら問題はないのではないのでしょうか?
肝心なときに作動しないよりも、常に気を張っている方がマシです。
しかし、作動しすぎるのはあまりよくありません。
刺激が多すぎる現代社会で、それが起きていると著者は警笛を鳴らしています。
刺激とは、スマートフォンから得られる多すぎる情報も含んでいます。
読み進める上で、この原則を頭に入れておいていただきたいです。
適度なストレスにさらされよう
ストレスは、私たちにとってよくないものであるという認識があります。
「ストレスフリーな社会へ」というスローガンも存在するほどです。
しかし、著者は適度なストレスは必要であると述べています。
なぜならばストレスは、短期間であれば集中したり、思考機能を鋭くするのに役に立つ
からです。
しかし、長期的なストレスはHPA系という危険信号を鳴らす器官に悪影響を与えるとも述べています。
先ほども述べたように、働きすぎる火災報知器は望ましくありません。
長期的なストレスは、私たちの体に悪影響を及ぼすのです。
ここで、ストレスと不安の違いについて説明します。
ストレスとは脅威そのものに反応
不安とは脅威となり得るものに反応
と分けています。
適度なストレスは集中力向上に役立つと学びました。
では、不安は何を与えるのでしょうか?
それを次に語ります。
人間の感情の役割
うつ病の患者が年々増えてきています。
著者の住むスウェーデンでは、成人の9人に1人がうつ病を患っているそうです。
うつのリスクを高める遺伝子の一つである神経伝達物質セロトニンというものがあります。
これは、私たちが不安を感じやすくするものです。
生物は日々進化し、その過程で余分なものは排除してきたはずです。
なぜこれが残ったのでしょうか?
著者は、私たちを守るべくして進化してきたのではないかと述べています。
危険信号を鳴らす働きが敏感になることによって、私たちを守る役割をしてきたのではないか?とし、
うつ病というのは自己防衛の一種なのではないかと著者は考えています。
スマホは私たちの最高のドラッグである
スマホが私たちの生活にとって必需品であるということは言うまでもありません。
スマホさえあれば生活のほとんど全てが不自由なく行えます。
しかし、この本のコンセプト通り、スマホの持つ悪影響について不安視しています。
ここでドーパミンという伝達物質を用いて著者の考えを展開しています。
ドーパミンとは、報酬物質と呼ばれますが、
もう一つの効果は、行動するかどうかの動機を与えることだと言います。
これがスマホ依存症に陥る理由だと述べています。
スマホで何か操作をしているときより、通知がなった時の方がドーパミンの量が増え、スマホを触るという動機が与えられます。
スマホで別の操作をしている時でも、誰かからの返信を待っている気持ちで、集中できないことには、理論的根拠が存在しました。
これにより、10分間隔でスマホを触る現代の人間の行動が操作されていると述べています。
企業トップは子供にスマホを与えない
これを聞いて運営者は驚きました。
自分たちが開発に精を出している発明品を、自分の子供に与えないなんて、、、
それは先ほど述べた通り、スマホの持つ強力な依存性が原因でした。
著者は、Apple創設者のスティーブ・ジョブズの実話を用いてこれを説明しています。
スティーブ・ジョブズは、自分の製品に複雑な感情を抱いていました。
それらがあまりにも魅力的だったからです。
スマホの持つ、強力な依存性を開発者たちは危惧していました。
自分たちの製品を広く普及させたいという気持ちはありながら、自分の子供たちには厳しい制限を与えていたそうです。
それほどスマホは画期的な開発であったことがわかります。
開発者が危険視するほどの製品を私たちは当たり前のように毎日使用しています。
魅力的なものほど棘があります。
それを私たちは再認識しなければなりません。
マルチタスクの弊害
複数の物事を同時にこなすことは得意ですか?
運営者も得意だと思っていました。
しかし、それは集中する対象を切り替えているだけで、
その切り替えには、コンマ数秒の時間が必要なので、むしろ非効率だと著者は述べています。
しかし、不思議なことに、人間はマルチタスクであるほど満足感を得ます。
それは、報酬物質であるドーパミンが出ているからです。
先ほども登場したこいつですが、これがどのように働いているのでしょうか?
マルチタスクであるとは、注意散漫なことを意味します。
注意散漫なのに、なぜ報酬物質が多く排出されるのでしょうか?
それは、人間の動物としての本能だと著者は述べています。
遠い昔、我々は狩猟民族でした。
当時は、1つのことに注意すると他の動物に狙われることに気づかず、死に至ります。
現代では、他の動物の獲物になるということはほとんどありえません。
時代は違えど、本能的に共通していることが多々あると実感しました。
脳がほとんど進化してないのであれば、現代社会に私たちの脳は適応しているのでしょうか?
こういった疑問が生まれました。
人間は悪い噂話が大好き
最近、芸能人の悪い噂が記事になることが多いです。
不倫だとか、黒いお金だとか、そういう話です。
個人的にあまり興味はありませんが、そういった週刊誌もなくなることはありません。
誰があれ買うんだろう?と思っていましたが、想像以上に需要はあるようです。
なぜでしょうか?
これも人間の生存戦略が関わっているようです。
狩猟を行なっていた頃は、150人ほどの集団が無数に存在していました。
誰が、どのグループが自分にとって不利益を被るだろうという情報は生き延びるために大切な情報だったからです。
この習慣が現代の我々の噂好きの性格に受け継がれていると著者は語ります。
その噂を広める最大規模のサービスはSNSです。
誰々が付き合っているらしいよ
裏ではこんなことをやっているらしいよ
などといった無数のやりとりが日々行われているわけです。
SNSが急速に発展した背景として、人間の本質的な性格が関わっていました。
狩猟時代には、それらが文字通り、生死に関わるものでした。
現代社会でも、情報量というのは
コミュニティーから弾かれない
時代についていかなければならない
いわば、生死に関わるものであるというのは変わっていないのかもしれません。
タブレット学習の有効性
生徒に一台タブレットを与えるという学校が増えてきています。
これは非常に便利なもので、授業データを保存できたり、遠くにいても学習できるという地理的制約も排除してくれる画期的な学習方法です。
しかし著者は、このタブレット学習は、
幼児に限っては逆に学習能力を低下させるのではないかと疑問をなげかけています。
パズルゲームを例に挙げると、大人がパズルをアプリでするのと、実際にするのとではさほど差がないです。
しかし幼児は、実際のパズルに触れて、形や、材質の特徴を学びます。
このように、実物でしか、学べないこともあると著者は述べています。
2歳児の8割が定期的にインターネットを利用している今、使用制限をかけるべきでは?という意見もあります。
大学などでは、タブレットを使いノートを取ることが当たり前になってきました。
ノートを取る手間が省け、講義に集中できるといった意見もあります。
しかし、ノルウェーで行った調査によると、実際にノートを自分の手で取った人の方が、後でその内容の記憶の定着が深かったという結果がありました。
その理由としては、紙のノートを取る場合、書くのに時間がかかり、特に重要な部分のみを選別して書く必要があるため、より深い記憶の定着が可能だからです。
このようなデータから、タブレット学習の有効性について懐疑的な意見を著者は持っています。
運動は効果的
慢性的な運動不足が問題になっています。
コロナ騒動で、より外に出る機会が減少しました。
それを改善するために、多くのメディアで、「数分でできる運動不足解消方法」などが放送されました。
著者は、このような数分の運動でも集中力が増すなど、身体的に、または精神的に良い影響を与えると述べています。
なぜでしょうか?
それは、先祖が体を動かしてきたからと結論づけています。
狩りをしているときなど、常に危険に晒されていた先祖は集中力が必要でした。
体を動かすことと、集中力が増すことは繋がっているわけです。
このように、先祖が行っていたことが、現代人にも当てはまるということが多いことが、今まで述べてきたことでお分かりになっていると思います。
私たちの、ヒトとしての生存メカニズムを理解することで、現代の社会問題を解決できるかもしれないと著者は述べています。
では、どのような運動が効果があるのか?研究を行いました。
答えは、全ての運動が効果的だった。
より詳しくいうと、半年間に最低52時間体を動かすのが最も効果的だという結果が得られました。
これは、週に2時間という計算になります。
このくらいの運動であれば、時間を捻出し、やる価値はあるのではないでしょうか。
早速ウォーキングに行ってきます。
終わりに
この本でも述べられているとおり、私たちは生活の大部分で電子デバイスを利用しています。
それらが生活の一部になっていて、必要不可欠な存在だからです。
しかし、その副作用も私たちはよく知っています。
デメリットよりもメリットの方が多いからと、ただ見てみぬふりをしているだけです。
これは、スマホを全く使うなということではありません。
スマホの持つ副作用に対して予防しようということです。
この本は、現代社会で必須のアイテムである電子デバイスとの、正しい付き合い方を教えてくれました。
多くの問題を抱える私たちのバイブルとなる本だと感じました。
ぜひ手に取っていただきたい一冊です。